
メッセージ:04
ロボットを通じた学び「ロボットプログラミング教育」
(取材:2024年5月)
- (写真右)
- 福田 哲也 追手門学院 ロボット・プログラミング教育・研究推進室長
-
専門教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・プログラミング教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。
ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。 - (写真左)
- 道北 秀寿 雲雀丘学園中学校・高等学校 教頭
-
専門教科は数学。2019年に文部科学省優秀教職員表彰。
雲雀丘学園がプログラボと共同実施している校内ロボットプログラミング教室「HiRo²Ba(ひろば)」に創設時から取り組む。
兵庫県宝塚市にある雲雀丘学園では2018年からプログラボの校内プログラミング教室を実施させていただいています。
当時、プログラミング教育自体の方向性がまだ不明瞭だった中で、先見の明を持って他校に先駆けて導入されました。
現在では、希望者対象にもかかわらず、約300名の学園生が学園内教室や最寄り駅前のプログラボ教室で学んでいます。
本日は、プログラボ導入に携わられた雲雀丘学園中・高等学校の道北先生と、プログラボ創業のきっかけとなった追手門学院大学・追手門大手前中高等学校の福田先生にご対談いただきます。
アメリカの教育プログラムに参加し、見えてきた日本の教育の課題点
福田:道北先生とお会いするのは初めてですので、簡単に自己紹介させていただきます。
私は元中学校教員で、2003年にアメリカの教育プログラムに参加し、火星探査ロボットをレゴブロックで作る教育活動を始めました。
それ以来、社会課題を解決するロボットを子どもたちと作り、国際的なロボットコンテストにも取り組んできました。
教育活動を通じて感じるのは、日本の教育が世界に遅れを取っている点です。
例えば、東南アジアの子どもたちは「日本のようになりたい」と言って努力しているのに、日本の現状はそれに応えきれていない部分があります。
これを少しでも改善したいという思いで活動を続けています。よろしくお願いします。
道北:よろしくお願いします。私も自己紹介を少しさせていただきます。
雲雀丘学園に赴任して18年になります。当初は「大学進学実績を上げる」ことが第一目標でしたが、それだけでは学校の未来を支える魅力にはならないと感じ、エンジニアリング教育に注目しました。
日本はエンジニアリング大国でありながら、それを教育現場で十分に反映できていない現状を改善したいと思っています。
プログラボさんの教室を初めて見学した際、実際の物理的な現象を通して学ぶことの重要性を再認識しました。
生徒が体験を通じて得られる「現場合わせ感」は、学びの本質だと思います。学園全体が、こうした学びにいつでも触れられるのが理想です。
ありがとうございます。「ロボットを通じた学び」というテーマは、他のプログラミング教育方法と比べても独自性があります。
福田先生、ロボットをプログラミング教育の中心に据えている理由について、もう少しお聞かせください。
生徒はロボットのプログラム改良で、深く考える機会を得る
福田:ロボットの魅力は「同じ動きをしない」という点です。
誤作動や予期しない結果が多く、それが生徒に新たな発見や挑戦を促します。
また、プログラムの改良だけでなく、ロボット自体の改良が必要になることもあり、子どもたちはより深く考える機会を得られます。
こうした経験が、単なる学び以上のものを提供すると思います。
道北:数学教育にも通じる話です。私は機械工学科出身で、実物を扱うことで初めて気付く「ズレ」の重要性を知っています。
この経験を生徒にも与えたいと思い、数学の授業にも立体図形を用いるなど工夫をしています。
ロボットプログラミング教育を導入した際、保護者の反応が気がかりでしたが、ロボットという具体的な教材のおかげで子どもたちの興味が続き、学園内でも定着しました。
なるほど、先生方がしっかりと関与し、学園全体で取り組むことで持続的な学びを可能にしているのですね。
福田先生、雲雀丘学園のように、学校全体が協力し合っている事例についてどのようにお感じですか?
ロボットを使った学びは、失敗を恐れず挑戦する姿勢が身につく
福田:素晴らしい取り組みだと思います。やはり学校内でプログラミング教育を導入する場合、現場の先生方が関与しているかどうかが成功の鍵です。
プログラボさんのような外部の専門家と学校側の教員が共同でプログラムを運営することで、子どもたちは両者の良い部分を享受できます。
それが生徒の成長や興味につながるんです。例えば、私が以前関わったプログラムでも、教員が積極的に関わると、生徒は先生を通じてプログラミングやロボットに対する興味を持つようになります。
それが結果として「なぜ学ぶのか」という動機づけにつながり、長く続く学びとなるのです。
ありがとうございます。道北先生、雲雀丘学園での取り組みの成果として、実際に感じられたことや生徒の変化について教えていただけますか?
道北:やはり生徒の発想力や問題解決力が大きく伸びていますね。
ロボットを使った学びでは、失敗を恐れず挑戦する姿勢が身につくのを感じます。
例えば、生徒たちはプログラムを書き直しながら試行錯誤を重ね、失敗を成功への一歩と捉えています。
また、学びの過程で得た自信が、数学や他の教科にも良い影響を与えているようです。
さらに、学園内だけでなく外部のロボットコンテストやイベントに出場することで、社会性やチームワークも育まれていますね。
素晴らしい成果ですね。挑戦する姿勢やチームワーク、そして学びへの自信が他教科にも波及するというのは、教育現場での理想的な連鎖だと感じます。
実際に、他の学校でも同様の変化が見られることは多いのでしょうか?
なぜプログラミングが重要なのか
福田:はい、他の学校でも共通して見られることです。
ロボットやプログラミングの学びは、単なるスキル習得に留まらず、考え方そのものを育てるものです。
とくに、問題を自分で発見し、それを解決する方法を考え抜く力は、これからの社会で重要視される能力だと思います。
その力を小・中学生のうちから育めるのは非常に有意義ですね。
道北:同感です。私たちも、そうした力がどのように日常生活や将来の進路選択に活かされるかを意識しながら、プログラムを設計しています。
また、保護者の皆さんにも「なぜプログラミングが重要なのか」をしっかりと伝えています。
これにより、生徒だけでなく保護者も一緒に学びの価値を共有できる環境を作っています。
保護者の方々も巻き込むという視点は素晴らしいですね。最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか?
プログラミング教育は、AIやIoTを理解し活用するための基盤
福田:これからはAIやIoTといった新しいテクノロジーがどんどん進化していきます。
プログラミング教育は、それらを理解し活用するための基盤です。
将来的には、さらに多様な学校や地域でプログラボのような取り組みが広がり、子どもたち一人ひとりが自分の興味や夢に沿って学びを深められる社会になることを期待しています。
道北:私たち雲雀丘学園でも、引き続き「挑戦する学び」を軸にした教育を進めていきます。
そして、生徒たちが学校生活を通じて得た経験や力を、未来にどう活かせるかを共に考え続けたいと思っています。
本日はこれからのプログラミング教育の未来について多くの示唆をいただき、大変有意義な時間となりました。
お二人とも、貴重なお話をいただきありがとうございました。