メッセージ:01
子供たちが問題解決を学び合う、現代の寺子屋
(取材:2017年5月)

小坂 光彦 阪神電気鉄道(株) あんしん・教育事業 統括責任者
大阪府立大手前高校、慶應義塾大学環境情報学部卒(SFC1期生)。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。ORACLE MASTER Platinum取得(2002年)。
1994年阪神電気鉄道に入社後、情報システム部等にてシステム開発、スルッとKANSAIにてPiTaPa多機能化の企画開発、社長室にて経営管理、M&A等に従事。2010年にミマモルメ、2015年に読売テレビと共同でプログラボを社内ベンチャーとして起業。
山本 陽 読売テレビ放送(株)報道局 報道グループ
大阪府立三国丘高校、早稲田大学政治経済学部卒。
1998年読売テレビ入社後、営業局・外勤担当としてスポンサー関連番組立ち上げに従事。2006年から制作局にて番組制作に関わった後、2015年から報道局。
社内出資制度「プロジェクトY」を活用し、2015年に阪神電気鉄道と共同でプログラボを起業。

地域や子供たちのため、関西の二社が議論を重ねる

山本:最初は僕が話を持ち掛けたんです。そもそも読売テレビでは、新規事業のアイデアを募集する制度があって、何かできないかと考えていたんです。阪神さんは、関西でも新規事業への取り組みが盛んな会社なので、以前からご縁があった小坂さんの元上司の方にご相談したのが始まりです。事業立ち上げに最適な人材ということで小坂さんをご紹介いただきました。

小坂:当時、たまたまICT教育を研究していて、日本のICT教育の遅れに危機感を感じ、何かできないかと考えていました。二社でこの辺りを掘り下げることになり、阪神がミマモルメでお世話になっている追手門学院小学校の東田校長先生に、これからのICT教育について取材に伺いました。そしたら「ウチの中高にロボット教育の権威がいますよ」って言われて、読売テレビのメンバーもすぐ呼んで、その足でロボットサイエンス部を見学させていただきました。福田教頭先生のご熱意と子供たちの前向きな姿勢を見て感動しました。これは絶対に良い!と。その場で「ロボットで行こう!」ということになったんです。

山本:これは、単にICTを教えるという意味ではないんです。両社の新規事業の意義として、まずは関西に恩返しができるようなこと、特に「子ども達の未来にかかわることに何か貢献したい」ということでしょうか。
子ども達の未来というものに、希望やドキドキわくわく感を提供したい。何かできるんじゃないか?せっかく関西の企業2社なので、本当にわくわくすることに携わりたいと思いました。

プログラミングだけじゃない、考え方、生き方を学べるプログラボ

小坂:ICT教育って、世界ではすでに普通なんですよ。しかも、ただプログラミングを教えるというのではなく、21世紀型スキルを育むという視点で。日本は全然遅れている。それならまず民間として、関西発でやれることを先にやろう!ということで始めました。

山本:僕たちは鉄道業と放送業で、そもそもICT教育とは異分野ですから、プログラミングを教えるだけでは満足いかない。だからメンバーたちとも一緒に「子どもたちに何を教えるか?」を何度も話し合いました。もちろんプログラミングを学んでほしいし、教えたいスキルもある。でもそれだけが目的なのか?と問われると違う。
伝えたいのは生き方やモノの考え方だったりする。そういう意味では我々は他分野の専門家だったということが、かえって良かったかもしれませんね。

小坂:プログラボの教育理念には、プログラミングを教えるとは書いていないんです。1.「学びに対する意欲」2.「視野や興味の幅を広げ、それを深く追求する心」3.「自らの力でやり抜く精神」という、ここで身につく3つのチカラを書いています。
まず課題があって、それを実現する方法がある。そこでどんなセンサーを使うのか?なぜそのセンサーを使ったのか?大事なのはそのプロセスです。答えのないところで自分なりに考えて「僕はこう考えたからこうなんだ」ということが大切。ロボット作りは、そういった前向きに取り組む環境を提供してくれるという感じです。

山本:同じようにプログラミングしても、結果は同じではない。水泳やスポーツは、目標はひとつだし体系化されていることも多い。でもロボットプログラミングは違います。正解はひとつではない。だからこそ、自分で考え抜くこと、そのプロセスが大事。そこが、ほかの習い事と決定的に違うところです。

スキルだけではない、関西から第二のスティーブジョブズを!

小坂:プログラボ内のロボット大会では、子供たちをはじめての人と組ませるんです。目的が一つだったら、それでもチームが組めるんですよ。ひとつの目的を達成させるために、チームで議論し 達成すること。1+1が2以上になる。こういう経験を経て、将来大きなことをやろうとしたときの対応力がつくんです。そして何より想いがないと。人間って、想いに惹かれるとお互いを尊重すること ができる。だからリーダーシップをとれる人は、フォロワーシップもとれると思うんです。WROの練習の時でも、「今日のリーダー」を決めさせるんですが、社会に出たときの状況を、あらかじめここで学んでいるということですね。

山本:実は当時「関西から第二のスティーブジョブズを!」という裏スローガンを掲げていたんです(笑)。これは冗談ではなくて、結局スキルが高いだけではビジネスはできない。仲間と力を合わせ、何度もコミュニケーションをとってやりぬく力が本当に大事。

小坂:プログラボでは、子供たちが最初に自分たちだけで作り上げたロボットを尊重するんです。教室によっては競技用に全員同じ形のロボットを作るところもありますが、一体一体のロボットの 個性があって、それをサポートするのが講師の務めだと思うんです。

山本:面白いですよ、ロボットプログラミングは。子供たちでも、自分の作ったロボットが動かないと、いわゆる”親目線”になるんです。一生懸命作ったのに”なぜこの子(ロボット)は動かない?”と。常に客観的に結果を捉えられることで探求心ややり抜くチカラにつながるんです。

小坂:だから子供たちは凄く集中していますよ。低学年の子も90分間ずっと集中している。で、トイレに行くのを忘れて、終わってから駆け込む子も多かったので、今では授業中に講師から声掛けしてるんです(笑)。

血が通っている「夢を実現するチカラ」というコピー

小坂:プログラボは最初、夙川で100人ぐらいからスタートして、いま全体で約1,000名のお子さんに来ていただいています。各教室では体験授業もやっていて、親御さんも実際の授業を見学できるんですけど、1年後の自分の子供の姿を見ているようなもんですから、「あ、こういうふうに成長するんだ」と、喜んでいただけてますね。

山本:実はプログラボが掲げている「夢を実現するチカラ」っていうコピーは、一見すごくざっくりしていると思うんですけど、そういう意味では、ちゃんと血は通っていているんですよね。

小坂:この言葉を体感してもらうには、体験授業がすごくわかりやすくて、親御さんは、見た瞬間に分かります。あとプログラボでは、無料体験授業に加え、教材費0円・入会金も0円・月謝のみ、にこだわっています。できるだけ負担を減らして、昔のソロバン塾みたいなレベルに持っていけたらと思うんです。

山本:元々、鉄道業と放送業って、地域の子供たちにドキドキわくわくしてほしい!というところからも始まっていますからね。子供たちがわくわくしながら生きていけるような社会になれば良いな…と思いますね。

小坂:そのサポートをプログラボがする。子供たちが自由につくっていくプロセスを見守りながら。

プログラボは「前進するラボ(研究所)」。子供たちは研究員

小坂:実はロボット以外にも、ハンダ付けがしたい、アプリをつくりたいという子がいるんですが、それも全部受入れようと思っています。今、プレゼンテーションツールを活用した動画作成もやってますし、中学生は、子ども達の希望でブログもやってます。現在、AIを組み込んだレゴマインドストームや、子ども達が楽しめるIoT技術の採り入れも検討しています。だから「ラボ=研究室」という名前にしているんです。プログラボのプログは、「プログレス=前進」、それに「プログラミング」の意味も掛けているんです。

山本:ほんとうにいい名前ですよね(笑)。

小坂:室長という表現にも、理由があって、教室長だと先生が一方的に教える感覚になってしまうけど、研究室という意味も含みたくて、室長は研究室長でもあり、子供たちは研究員でもある。今までの発想なら「で、誰が何を教えるの?」となるけど、教えるではなく、共に考える。子供たちが自分らでやっていくように導く。ハンダ付けのように、好奇心が湧いてきたら、すぐに差し出してあげられるようなラボにしたいですね。

大事なのは「なぜ?」の追求。人の役に立つことを学ぶ

小坂:私がいちばん大事にしているのが「なぜ?」ってことなんです。だからプログラボを設立する際に、この2社で「なぜ?」を語り合えたのは大きかったですね。

山本:夢を語り合えたし、そもそもお互いの本業とは違う分野でなぜやるのか?ということも、さんざん議論していますから。それがないと、どんな事業でもやっぱり商売に走ってしまう。僕らの利益は、ご利益(りやく)みたいなもんかな(笑)。
日本の子供たちのスキルや想いがもっと高まったら、いろんな問題を解決していける。例えば身近な人を助けたいという気持ちは、こういうスキルを使って助けられるんです。高齢化社会を迎える にあたって、日本はICTレベルをもっともっと上げていかないと。

小坂:愛媛県から夙川校へ毎週通ってくるお子さんがいるんですが、その子の夢が発明家なんです。それで、お母さんが彼に「○○の作ったロボットが売れたら、お母さんは良い暮らしができるわ」って言ったら、その子が「お母さん、僕はそんなことのためにロボットを作っているんじゃないよ。いろんな人に使ってもらうために作ってるんだ」って言うんです。

山本:おぉ…、鳥肌が立ってきますね。そういう意味でも、ロボットプログラミングはすごく良いジャンルだと思います。

小坂:それから、面白かったのが、ダイセン工業さんの基板がわかるロボットを使っての大会で、センサーの付け方が若干違ったりしても、彼らは「基本は一緒や」というんです。そもそもロボット やプログラミングは、問題解決のためにあるものなので、軸が一本あれば、「あ、ロボット以外でも一緒やな」って、何でも対応できるようになると思いますよ。

山本:プログラボで学んでる子が、毎日いろんなニュースを見るじゃないですか?彼らには、そこに登場するロボットやICT技術が、光って見えていると思うんです。サッカーをやっている子がプロのサッカー選手を見る感覚です。そんなワクワク感を膨らませる学びが、プログラボにはある。

親御さんに、プログラボのエネルギーや本気度を感じてほしい

山本:ぜひ一度、体験授業に来てほしいですね。体験していただくとプログラボの良さがわかると思います。

小坂:プログラボの体験授業は「入ってもらおう」じゃなくて「ロボットの楽しさを知ってもらおう」という考え方なんです。なので体験会に来てくれたお子さまには、「今日の体験会によって、プログラミングはそれほど難しくなく楽しいなぁ、とか、学校で習う他の教科とは違って答えがないんだなぁ、とか感じてもらえたら、それだけで僕らはうれしい」、とお伝えしています。そしたら、先生がそう仰ったからこそ申し込みましたっていただけたお母さんもおられました。やっぱり我々の「ロボットプログラミングを通じた教育」に対するエネルギーとか…本気度とか、親御さんはそういうところをしっかりご覧になりますよね。

山本:プログラボに預けたら、子どもの成長にとって良いことがあるの…?というところですよね。

小坂:実は私、学生時代に4年間塾講師をやっていたんですが、あのときの体験が、プログラボをやるきっかけになったのかもしれませんね。
ICT教育って結果はすぐ出ないから、親御さんにしたらすごく不安だと思うんです。違いもわかりにくいし、ロボットやっていたらどうなるの?と。でもここの子たちは、結果は出てくると思いますよ。プログラボがきっかけで、「ロボットをやりたいから○○に行きたい」って、目標ができている子がいますから。
そのときに出会う先生って大切なんで、プログラボの各室長やスタッフは子供たち一人ひとりを、すごく大事にしているんです。ロボット教室って、成績を上げる塾と違うので、やっぱり一人ひとりの顔を覚えて、性格を知って、必要なときは手をさしのべて、時には放っておく。そのあたりの緩急の付け方を、室長たちはすごく意識しています。
毎週の室長会議では、子ども達のことを真剣に議論しているんです。

山本:今言われている働き方改革じゃないですけど、日本人は働く意味とかを考えずに来てしまったというか、誰も教えてくれませんでしたし、僕らよりもっと下の子供たちは目標が分かりにくいですよね。働くことって?夢を実現することってどういうことなのか?とか。
子供たちがドキドキわくわくしながら毎日生きていけるように、プログラボがそういうことのヒントの一つになれればいいな、ということを思いますね。

小坂:2020年度の大学入試改革が実施されますけど、世相を反映してますよね。これまでの「知識・技能」の定着を測定することから、「思考力・判断力・表現力」が大学で学ぶに値するかどうか が焦点に変わります。実は、社会に必要なのは、ずっと、このチカラ。プログラボの目指すところなのです。